元IPCCレポート執筆者からのビデオメッセージ「バイオマスエネルギーがカーボンニュートラルではない10の理由」
2021.4.9※以下は動画の文字起こしとなります。原文は動画をご確認ください。また英語および日本語の文字起こしは下記からダウンロード可能です
※この動画は2015年11月に公開されたものです https://www.eubioenergy.com/2015/11/20/bioenergy-is-not-carbon-neutral-says-ipcc-author-william-moomaw/
こんにちは、ウィリアム・ムーマウです。タフツ大学の教授です。過去19年間に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書の執筆を5回担当した他、2011年には、「再生可能エネルギ源ーと気候変動緩和に関する特別報告書」の統括執筆責任者を務めました。
今日は、バイオマスはカーボンニュートラルである、という神話についてお話ししたいと思います。
バイオマスがカーボンニュートラルであるという考えは、いくつもの誤解と不完全な解析に基づいたものです。
この仮説は、簡単にまとめると次のような論理に基づいています。「植物原料を燃焼すると、大気中に二酸化炭素(CO2)が放出されるが、代わりに新たに植樹すれば、同等の量のCO2が除去されて、その差を相殺する」というものです。しかし、これから詳しくお話ししますが、この仮説は間違っています。特に森林由来のバイオマスの燃焼を利用した発電は、カーボンニュートラルとは程遠いものです。
第一に、燃焼時に発生する熱量あたりのCO2排出量は、石炭よりも木質バイオマスの方が多くなります。これは実証的に検証された化学的性質です。木質バイオマスのみで発電した場合、もしくは木質バイオマスと石炭を組み合わせて発電した場合、発電効率は石炭よりも低くなります。そのため、木質バイオマスによる単位発電量当たりのCO2排出量は、石炭と比較して通常50%ほど多くなります。
第二に、木材が燃えるのにかかる時間はわずか数分ですが、新たに植樹された木がCO2を吸収するようになるまでには、数十年かかります。そのため、木質バイオマスを燃焼させた場合の大気中のCO2の量は、木をそのままにしておいた場合よりも常に多くなります。木が一瞬で成長しない限り、エネルギーサイクルのこの部分がカーボンニュートラルになることはありません。
第三に、CO2吸収による将来的な恩恵は、当面排出される燃焼時のCO2に応じて、割り引いて考えなければいけません。木の再生について年間5%の割引率を適応した場合、14年目のオフセット値は、1年目の半分にしかなりません。
第四に、燃焼時に放出されるものと同等の量のCO2を吸収する木を植えるという要件を強いる、あるいはその検証を要求する政策は存在しません。
第五に、火災、昆虫による被害、干ばつ、代替開発プロジェクトのための早期伐採などにより、バイオマスの再生能力が低下する可能性については、まったく考慮されていません。北米では現在、これらの原因により、広大な面積の森林が失われています。
第六に、森林の二酸化炭素量が一定になるよう、森林を持続可能な形で管理すれば、バイオマス燃焼によるCO2排出量はカーボンニュートラルであるという主張があります。植樹による森林全体の成長率と同等の比率で木を燃焼させることで、森林内の二酸化炭素量を一定に保つことは可能ですが、大気中の二酸化炭素量は、木を燃やさなかった場合と比較した場合、常に多くなるのです。
第七に、木質バイオマスには、木材の端材や廃材、間伐で切られた木、木材としての用途に適さなかった木などしか使用されていないともよく言われます。実際には、こうした木材は意外に少なく、その収集と輸送は難しい上に、高いコストもかかります。そこで、木質ペレットを製造するために、多数の木が丸ごと利用されているのが実情です。
第八に、森林の廃材はいずれ腐敗し、その過程においてCO2を排出することになるという主張もよく聞かれます。繰り返しになりますが、瞬時の燃焼と比較すると、このような(自然の)過程によるCO2排出量ははるかに少なく、また自然の場合、CO2は大気中に放出されるだけでなく土壌にも吸収されることになります。
第九に、木材を伐採し、削り、ペレット状にした上、乾燥し、焼却場に輸送するというプロセスで使用される化石燃料は、そこから得られるバイオマスエネルギーの15〜20%を占めると見積もられており、これについても排出量として加算されるべきです。
第十に、バイオマス生産のために移動や除去を余儀なくされる植物や土壌に元々含まれていた二酸化炭素についても考慮されなくてはなりません。この量を、バイオマスを使用しながら復元するには、数十年から100年、もしくはそれ以上の時間がかかります。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、再生可能エネルギーを、「使用の速度と同じ、またはそれを超える速度で自然過程により補給される、太陽光や地球物理学的・生物学的資源から作られる、あらゆる形態のエネルギー」と定義しています。ところが、バイオマスはCO2排出量の多い再生可能エネルギー源であり、補充される量よりもはるかに速い速度で採取・燃焼されます。
英国を含む欧州連合(EU)は、発電用のバイオマスをカーボンニュートラルであると定義しています。つまり、バイオマスは、明確な低炭素エネルギー源である太陽光や風力と同等の基準で捉えられているということです。
これは間違っているだけでなく、皮肉な結果をも生み出しています。燃料として木材を利用し、森林の伐採や劣化を招いている途上国は、気候変動を深刻化させているとみなされるのに対し、欧州や米国の大半の州では、最新のバイオ燃料の使用から生じる排出を、カーボンニュートラルとみなしているからです。
さらに、バイオマスに関するEUの現行の規制は、バイオマス燃焼時に放出されるCO2に関して、エネルギー生産として燃焼する際には、化石燃料と同じくグローバルベースで計上する、あるいはそれができない場合、土地利用変化として計上しなければならないとしている、IPCCの求める炭素会計方法と相いれないものです。
バイオマスを燃料として燃焼した場合のCO2排出量を、EUがゼロとするならば、バイオ燃料を供給した国――往々にしてEU域外の国――は、その排出を土地利用変化による排出として計上しなければなりません。
しかし、いずれの場合も、地球の大気にとっては、排出量として加算されることになります。
光合成による太陽光エネルギーの(電力への)変換と、バイオマス燃料による電力生産の相対的効率性を比較するのは興味深いことです。太陽エネルギーを太陽光パネルで直接電力に変換する場合と比べると、本来、光合成は非効率的です。木立における光合成効率は、ほとんどの場合、1%以下と推定されています。
この数値、そして、木質バイオマス燃料による電力への最大変換率25%を考慮した場合、実際の変換効率は正味4分の1パーセントということになります。現在市販されている太陽光パネルは、変換効率が20%のものもあり、単位面積当たりの効率は、バイオマスの80倍にもなります。
以上の理由から、米国環境保護庁(EPA)は、クリーンパワープランの最新の規則において、木質バイオマスをカーボンニュートラルな石炭の代替燃料として、発電所の低炭素基準に組み込むことを認めない方針です。
気候変動に対処するには、大気中の温室効果ガス濃度の減少に向けた政策の実施において使用されるカーボンアカウンティング(炭素会計)システムを、大気の実情に即したものにしなくてはいけません。そうしなければ、気候変動は深刻な結果をもたらすことになるでしょう。
EUの再生可能エネルギーの半分以上はバイオマスであるため、適切な炭素会計システムなしにCO2削減目標を達成するという主張には、疑問が残ります。
私の話は以上です。
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※以下は動画の文字起こしとなります。原文は動画をご確認ください。また英語および日本語の文字起こしは下記からダウンロード可能です
※この動画は2015年11月に公開されたものです https://www.eubioenergy.com/2015/11/20/bioenergy-is-not-carbon-neutral-says-ipcc-author-william-moomaw/
こんにちは、ウィリアム・ムーマウです。タフツ大学の教授です。過去19年間に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書の執筆を5回担当した他、2011年には、「再生可能エネルギ源ーと気候変動緩和に関する特別報告書」の統括執筆責任者を務めました。
今日は、バイオマスはカーボンニュートラルである、という神話についてお話ししたいと思います。
バイオマスがカーボンニュートラルであるという考えは、いくつもの誤解と不完全な解析に基づいたものです。
この仮説は、簡単にまとめると次のような論理に基づいています。「植物原料を燃焼すると、大気中に二酸化炭素(CO2)が放出されるが、代わりに新たに植樹すれば、同等の量のCO2が除去されて、その差を相殺する」というものです。しかし、これから詳しくお話ししますが、この仮説は間違っています。特に森林由来のバイオマスの燃焼を利用した発電は、カーボンニュートラルとは程遠いものです。
第一に、燃焼時に発生する熱量あたりのCO2排出量は、石炭よりも木質バイオマスの方が多くなります。これは実証的に検証された化学的性質です。木質バイオマスのみで発電した場合、もしくは木質バイオマスと石炭を組み合わせて発電した場合、発電効率は石炭よりも低くなります。そのため、木質バイオマスによる単位発電量当たりのCO2排出量は、石炭と比較して通常50%ほど多くなります。
第二に、木材が燃えるのにかかる時間はわずか数分ですが、新たに植樹された木がCO2を吸収するようになるまでには、数十年かかります。そのため、木質バイオマスを燃焼させた場合の大気中のCO2の量は、木をそのままにしておいた場合よりも常に多くなります。木が一瞬で成長しない限り、エネルギーサイクルのこの部分がカーボンニュートラルになることはありません。
第三に、CO2吸収による将来的な恩恵は、当面排出される燃焼時のCO2に応じて、割り引いて考えなければいけません。木の再生について年間5%の割引率を適応した場合、14年目のオフセット値は、1年目の半分にしかなりません。
第四に、燃焼時に放出されるものと同等の量のCO2を吸収する木を植えるという要件を強いる、あるいはその検証を要求する政策は存在しません。
第五に、火災、昆虫による被害、干ばつ、代替開発プロジェクトのための早期伐採などにより、バイオマスの再生能力が低下する可能性については、まったく考慮されていません。北米では現在、これらの原因により、広大な面積の森林が失われています。
第六に、森林の二酸化炭素量が一定になるよう、森林を持続可能な形で管理すれば、バイオマス燃焼によるCO2排出量はカーボンニュートラルであるという主張があります。植樹による森林全体の成長率と同等の比率で木を燃焼させることで、森林内の二酸化炭素量を一定に保つことは可能ですが、大気中の二酸化炭素量は、木を燃やさなかった場合と比較した場合、常に多くなるのです。
第七に、木質バイオマスには、木材の端材や廃材、間伐で切られた木、木材としての用途に適さなかった木などしか使用されていないともよく言われます。実際には、こうした木材は意外に少なく、その収集と輸送は難しい上に、高いコストもかかります。そこで、木質ペレットを製造するために、多数の木が丸ごと利用されているのが実情です。
第八に、森林の廃材はいずれ腐敗し、その過程においてCO2を排出することになるという主張もよく聞かれます。繰り返しになりますが、瞬時の燃焼と比較すると、このような(自然の)過程によるCO2排出量ははるかに少なく、また自然の場合、CO2は大気中に放出されるだけでなく土壌にも吸収されることになります。
第九に、木材を伐採し、削り、ペレット状にした上、乾燥し、焼却場に輸送するというプロセスで使用される化石燃料は、そこから得られるバイオマスエネルギーの15〜20%を占めると見積もられており、これについても排出量として加算されるべきです。
第十に、バイオマス生産のために移動や除去を余儀なくされる植物や土壌に元々含まれていた二酸化炭素についても考慮されなくてはなりません。この量を、バイオマスを使用しながら復元するには、数十年から100年、もしくはそれ以上の時間がかかります。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、再生可能エネルギーを、「使用の速度と同じ、またはそれを超える速度で自然過程により補給される、太陽光や地球物理学的・生物学的資源から作られる、あらゆる形態のエネルギー」と定義しています。ところが、バイオマスはCO2排出量の多い再生可能エネルギー源であり、補充される量よりもはるかに速い速度で採取・燃焼されます。
英国を含む欧州連合(EU)は、発電用のバイオマスをカーボンニュートラルであると定義しています。つまり、バイオマスは、明確な低炭素エネルギー源である太陽光や風力と同等の基準で捉えられているということです。
これは間違っているだけでなく、皮肉な結果をも生み出しています。燃料として木材を利用し、森林の伐採や劣化を招いている途上国は、気候変動を深刻化させているとみなされるのに対し、欧州や米国の大半の州では、最新のバイオ燃料の使用から生じる排出を、カーボンニュートラルとみなしているからです。
さらに、バイオマスに関するEUの現行の規制は、バイオマス燃焼時に放出されるCO2に関して、エネルギー生産として燃焼する際には、化石燃料と同じくグローバルベースで計上する、あるいはそれができない場合、土地利用変化として計上しなければならないとしている、IPCCの求める炭素会計方法と相いれないものです。
バイオマスを燃料として燃焼した場合のCO2排出量を、EUがゼロとするならば、バイオ燃料を供給した国――往々にしてEU域外の国――は、その排出を土地利用変化による排出として計上しなければなりません。
しかし、いずれの場合も、地球の大気にとっては、排出量として加算されることになります。
光合成による太陽光エネルギーの(電力への)変換と、バイオマス燃料による電力生産の相対的効率性を比較するのは興味深いことです。太陽エネルギーを太陽光パネルで直接電力に変換する場合と比べると、本来、光合成は非効率的です。木立における光合成効率は、ほとんどの場合、1%以下と推定されています。
この数値、そして、木質バイオマス燃料による電力への最大変換率25%を考慮した場合、実際の変換効率は正味4分の1パーセントということになります。現在市販されている太陽光パネルは、変換効率が20%のものもあり、単位面積当たりの効率は、バイオマスの80倍にもなります。
以上の理由から、米国環境保護庁(EPA)は、クリーンパワープランの最新の規則において、木質バイオマスをカーボンニュートラルな石炭の代替燃料として、発電所の低炭素基準に組み込むことを認めない方針です。
気候変動に対処するには、大気中の温室効果ガス濃度の減少に向けた政策の実施において使用されるカーボンアカウンティング(炭素会計)システムを、大気の実情に即したものにしなくてはいけません。そうしなければ、気候変動は深刻な結果をもたらすことになるでしょう。
EUの再生可能エネルギーの半分以上はバイオマスであるため、適切な炭素会計システムなしにCO2削減目標を達成するという主張には、疑問が残ります。
私の話は以上です。
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Added:2021-04-09 05:17:43
Updated:2021-04-09 05:17:43